閃光のように 第10話


スザクはユーフェミアと出会った!
オレンジ事件?何それ美味しいの?
スザクは携帯を手に入れた!
スザクの脳内は暴走している!
ルルーシュの貞操がピンチだ!
この話でそんな場面出てこないけどね!

そんなこんなでアッシュフォード学園。
指示された通り校門をくぐり、学園内の車道を走ってクラブハウスの裏にトレーラーを停めてから入口のチャイムを鳴らした。
出迎えたのは見知らぬ黒髪の女性。
スザクはすっと目を細め、思わず低い声で「誰?」と尋ねた。
ルルーシュとナナリーのいる場所に女性。
ルルーシュが浮気をするとは思えないが、見過ごすわけにはいかない。
何より相手はどう見ても日本人。
僕を恋しがったルルーシュが、僕と同じ日本人に温もりを求める可能性はゼロでは無いのだ。しかも年上。僕も数ヶ月だがルルーシュより年上で共通点も多い。
完全に喧嘩腰になっているスザクは、女性をぎろりと睨みつけていた。
だが、相手はスザクの失礼な態度などどこ吹く風。
平然とした態度で「篠崎咲世子と申します。こちらでルルーシュ様、ナナリー様にお仕えしております」と答えた。
要はメイドだ。
恐らくはナナリーの介助のためのメイド。
いくら重度のシスコンルルーシュでも、思春期の妹の世話を全てするわけにはいかないのだろう。特にお風呂関係は絶対にNGだ。
なーんだ。と、スザクは胸をなでおろした。

「枢木スザク様、ロイド・アスプルンド様・セシル・クルーミー様でございますね。お待ちしておりました」

礼儀正しく挨拶をした咲世子は、三人を中へと促した。
エントランスを抜け居住区へと入ると、そこにはソファーに寛いでいる三人の男女。
一人は最愛の嫁ルルーシュ。
一人は最愛の義理妹ナナリー。
そしてもう一人は、邪魔者C.C.。
ルルーシュの貞操を狙っているに違いない僕の敵だ。
僕の嫁に纏わりついている、害虫。
ルルーシュに傷が付く前に、早く駆除しなければ。

「ああ、やっと来たのかスザク」

ルルーシュは呆れたように口にした。
せっかく会えたというのに、どこか不機嫌そうに見える。

「お兄様、そんな事を言ってはいけませんよ。きっと裁判関係の後処理で時間がかかってしまったんです」

そうですよね、スザクさん?
ルルーシュがメッセージに残した通り可憐で愛らしく成長したナナリーが首を傾げながら笑顔で尋ねてきた。

「うん。遅くなってごめんねルルーシュ、ナナリー」

僕は思わず顔の筋肉が硬直し、まるで棒読みのように返事をした。
7年ぶりの再開だというのに、その挨拶さえする余裕もない。
ナナリーの顔は笑顔で、ルルーシュが天使と書き記した理由が解るほど愛らしいのだが、彼女の纏っている気配はものすごく冷たくて怖い。
殺気をビシビシと感じる。
私のお兄様が首を長くして待っていたのに、まさか寄り道なんてしてませんよね?
そう責められている気がする。
しまった。
僕がユフィとデートしている間も二人は待っていたのか。
と言う事は午前中からずっと。
これは拙い。
C.C.がにやにやと笑っているから余計に拙い。
浮気をしたわけではないが、ユフィの事は絶対に知られてはいけない。
可愛い奥さんが首を長くして家で待っているのに、他の女性と一緒だった何て知られては夫婦げんかになってしまう。
背中に冷たい汗を流しながらそう考えたのだが。

「すみませんねぇ、スザク君が釈放されてすぐに女の子とデートなんて始めちゃったから、予定よりも5時間も遅れちゃいましたよぉ」

あっさりとロイドがばらしてくれた。
ざあっと全身の血が引いた。

「ほほう?なんだ枢木。釈放された開放感で早速女を口説きにいくとは、お前も隅には置けないなぁ?」

にやにやとC.C.は楽しげに笑みを乗せた。

「スザクさん、どのような方とデートをされたのですか?」

鬼のような気配を纏ったナナリーの殺気が膨れ上がり、それでも可憐な笑顔と声はそのままに聞いてくる。
ルルーシュはそんなナナリーにメロメロになっていて、頬を染めながらうっとりとナナリーを見つめていた。
相変わらずのシスコンぶりに安心したけどさ。
君、この殺気感じないの?と思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。
・・・駄目だ。ルルーシュのシスコンフィルターは強力だ。
ナナリーのどす黒いオーラなど見えてはいまい。
きっと可憐で心やさしい無垢なナナリーが微笑んでいると思っているに違いない。

「ち、違うよ!デートじゃないよ!?」

慌てて口にするが、女性二人は信じられないという視線(ナナリーの瞼は閉じているが)を向けるし、ルルーシュはあまり興味が無いと言いたげにナナリーを愛でていた。
ああ可愛い。さすが俺のナナリー。俺の天使。
そんな言葉が聞こえてくるし、その顔は至福そのものだ。
君の最愛の夫の浮気話だよ!?
興味持って!
嫉妬してよ!
淋しいよルルーシュ!!
夫とか嫁とか最愛とかその辺が思い込みだったとしても、欠片も興味を示さないルルーシュに対して、思わず心のなかで文句を言うのは仕方がないだろう。
そんなスザクをまるっと無視して、咲世子はロイドとセシルに席を進めた。
そして。

「スザク様はそこで正座をしてください」

皆から少し離れた場所に正座させられた。
良く見ると彼女からも痛い視線をビシビシ感じた。

「あらあら?席が足りないなら私が」

よけますね。
そう言って席を立とうとするセシルをC.C.が制した。

「いやいや、枢木は日本人だ。あれが日本人の座り方だから気にしなくていい。正座、という礼儀正しい座り方だ。なあ、ナナリー」
「まあ、スザクさん正座をしているのですか?確かに日本では一般的な座り方ですね、お兄様」

にこにことナナリーも賛同するものだから、ルルーシュは否定などする筈がない。
それはそれは美しく、愛に溢れた笑みと声音をナナリーに向ける。

「ああ、スザクは昔から道場でもああやって座っていたな。俺には苦痛だったが、スザクはいつも平気な顔をして座っていたよ」

懐かしむかのように笑顔でそう言われてしまえば、日本のことには疎いロイドとセシルはなるほどと納得し、頷いてしまう。
違うよ!
絶対違う!
皆は椅子なのに一人だけ正座って、それはいじめだよ!?
だけどルルーシュが綺麗な笑顔で断言したため、スザクも否定する事は出来ず、床に直接置かれた紅茶をすすり、同じく直接置かれたクッキー皿からクッキーを取口に入れた。
ああ、悲しい。

「それで?もぐもぐ、相手はどんな娘だったんだ?ぱくぱく」

C.C.はクッキーを頬張りながら尋ねた。

「口に物を入れながら話すな。行儀が悪いだろう」

速攻ルルーシュに叱られる。
まるで母親と手のかかる娘だ。
・・・つまりそれだけ親密に見えるのだ。
くっ妬ましい。
だが、この場で殺気など放とうものなら軽蔑されかねない。
ナナリーの殺気には気づかないルルーシュだが、スザクの殺気なら余裕で気づく。
スザクは不貞腐れながら紅茶をすすった。

「それがねぇ。スザク君のお相手、ユーフェミア様なんですよぉ」

へらっと笑顔でロイドが言った。

「ユーフェミア様?」

スザクがキョトンとした顔で言った。

「お前、相手の名前も聞いていなかったのか」

C.C.が呆れたように言った。

「名前は聞いてるけど・・・何で様なんて・・・」
「ん?ユーフェミア?・・・ユーフェミア・リ・ブリタニアか?」

C.C.がさらっとその名前を出した。

「へ?」

ブリタニア?
それは皇族の・・・。

「大当たり~。君、良く知ってたねぇ」
「ロイドさん、本当なんですか?あの女性がユーフェミア皇女殿下だったんですか?」

セシルが慌てたように尋ねた。

「うん。あまり表には出てない人だから知られてないけどね。第三皇女殿下だよぉ」
「まあ、スザクさんはユーフェミア様をナンパされたのですか?」
「な、ナナリー!ナンパなんて言葉、どこで覚えたんだ!?」

ルルーシュが慌てたように言ったが、そんなに慌てるような事だろうか。

「お、俺のナナリーが汚い言葉を!そんな言葉、忘れてしまいなさい」
「はい、お兄様」

きらきらとした空間を作り出しながらこの兄妹はひしっと手を握り合った。
あまりにも真剣な表情のルルーシュに、ナンパ程度で汚い言葉なんて、どれだけナナリーを箱入りに育てているんだと普通に心配になる。

「別にいいだろうナンパぐらい。お前など街を歩く度に何十という数の男女にナンパされているだろうに」

無菌室で育て過ぎだ。
ナナリーが実は耳年よりだと知っているC.C.は呆れをこめてそう言った。
ルルーシュが知らないような下品な内容も、ナナリーが知っている事を知ったら、ルルーシュはショックのあまり倒れるかもしれない。

「なっ!!」

僕のルルーシュにC.C.以外にも害虫が!?
しかも2桁!?
これだけ美人のルルーシュだから、声をかけるのも当然か。
ああもう、外の世界は危険すぎる!今度から僕と外出しようね!

「お兄様!?」

美しいと聞き及んでいるお兄様に薄汚い害虫が!?
ああ、お兄様。今度から外出時には私をお連れください!

「俺の話などどうでもいい。で、スザク。お前ユフィに声をかけただと?」

俺の異母妹をナンパしたとはいい度胸だ。
おまえ、死にたいのか?
そんな声が聞こえた気がした。
顔はにっこり笑顔だが、どす黒いオーラを・・・ああ、ホント君とナナリーは兄妹だよね。そっくりだよ。
ざくざくと突き刺さる殺気を感じながらスザクは冷や汗を流した。

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